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1.行政システムに合わない公共ホール運営
文化行政に関わりを持ち足掛け8年になりますが、振り返りながら公共ホールのあり方を考えてみたいと思います。
文化事業の企画、運営を行政の器でやってきましたが、やり難いことが多々あったように思います。ホールを運営する上で、予算の執行や職員の異動、館長権限等々様々な問題に直面してきました。マニュアルがない中で、そのつどできることから課題を克服するしかなかったのです。そのことは取りも直さず、この地域で芸術や文化といった方面への関心が低かったことに起因しているのではないかと感じてきました。国でも「文化芸術振興基本法」がようやく成立しましたが、今まで、法律が無いなかで文化行政を進めてきたことに驚かされます。これまで国や県、市町村において文化行政のありかたをきちんと論議されてこなかったからなのではないかと思います。特に、地方のホールは、今こそ、真剣にあるべき姿を追求する必要があるのではないでしょうか。
21世紀の政策は「モノからこころ」へと転換されようとしています。今では、全国で3000館を越えるホールが建設されましたが、特に地方の公共ホールは、「稼働率が低い。自主事業をやらない等うまく機能していないと言われてきました。しかし近年は、行政も文化政策に力を注ぎ、芸術文化事業への取り組みや人材育成が積極的に行われ、少しずつですが、地方のホールの取り組む姿勢が変わりつつあるように感じます。しかしながら、景気の低迷から、意志はあっても財政面の制約から「文化渋り」や「文化はがし」など辛い話も耳にしています。このような時代だからこそ、行政や住民が「芸術は人の心を和ませ、人と人を結び勇気づけ、生きる力を生み出すエネルギーである」と本気で考え、文化政策を重点的に推進していく必要があるように思います。今、私たち公共ホールに携わる人間が、そのありかたを真剣に考え、改革してゆく時期がきているように痛感しています。
地域の中で、ホールのスタンスはどのようであったらよいのかと考えたとき、教育分野では「教育基本法」で教育委員会を設置しているように、「文化芸術振興基本法」にも同じように法で認められた機関が必要なのではないかと考えています。病院が医療機関として地域になくてはならない存在となっているように、公共ホールも同じように、文化機関として機能するシステムが必要だと考えています。病院は、「人の命を救い、身体を治す」大切な機関となっています。そして、ホールは「人の心を救い、癒し、感動を与える」大事な機関となり得ると思います。さらに、図書館には司書が、美術館や博物館には学芸員がいないと運営ができないように、ホールにも同じように専門職が必要ではないでしょうか。有資格者を必置とするような制度を制定し、アートマネージメントを学ぶ学生や、経験者を公共ホールに採用しましょう。全国には3000館のホールがありますので、有資格者採用制度が成立することにより、多くの専門職の雇用が生まれるのではないでしょうか。
また、公共ホールでの予算を執行するうえで、行政の会計システムでは、柔軟性や即応性に欠ける面が多々あります。柔軟に予算執行できる会計手法も今後の大きな検討課題だと考えます。
今、経済不況の中、構造改革として、行政特区制度の検討が進められていますが、文化芸術は大きな法律の見直しが必要であり、地方においても、「文化芸術振興基本法」に鑑みた地域の個性や住民ニーズを反映させた「文化芸術振興条例」や「文化による地域づくり条例」などの制定が必要と考えています。
このように、芸術文化振興をまちづくりの中心に捉えて、文化行政の大改革を進めることにより、公共ホールは、行政の大事なセクションとして生まれ変わるのではないかと考えています。私たちの地域では、来年11月に町村合併することとしていますが、合併しようとするその6町村で共同設置された小出郷文化会館は、公共ホールのあり方を模索し、7年間少しずつですが実践を積み重ねてきました。新市での行政組織に小出郷文化会館がいかに運営しやすい位置づけになれるか挑戦していきたいと思います。
2.うまく運営している公共ホールとアートマネージャー
今から20年前、私は音楽活動をしながら文化施設建設運動に関わってきました。その後、地域のあるべき姿や公共ホールの建設を考える「町づくり研究会」や「住民による文化を育む会」に所属し「文化のまちづくり」をテーマに研修や研究する機会がありました。全国の公共ホールの中でもすばらしい運営をしている所がありました。稼働率、集客数、自主事業数などいずれも高い数値を誇るそれらのホールには、共通した3点がありました。
1.ホール利用料金が安く、利用時間の柔軟性など住民主体に考えた管理運営体制を考えている。2.ホール運営が住民参加型あるいは住民主体のホール運営で官民の役割と関係がうまくいっている。3.ホール運営の考え方がしっかりしていて、そのコンセプトを活かした自主事業を継続し積極的におこなっている。また、ホールに関わる人の意識にも3つの共通点がありました。1.首長が芸術文化に理解がある 2.職員が文化芸術好きで真剣に取り組んでいる。3.住民や地域が本気で公共ホールに関わり支えているなど、首長・職員・住民の意識が一つになっていました。地域の公共ホールは、地域ごとの環境や特性や人材を活かしたコンセプトを考え、それを活かした事業の企画制作と公共ホール、住民、芸術家とのパートナーシップが大事です。そして、ホールはアートマネージメント能力の備わったマネージャーを置いて運営することでよりよく機能するのです。残念ながら地方の多くの公共ホールにはその職がないのですが、新しい職員採用システムができるとすれば、公共ホールの運営を大きく変えることができるのではないでしょうか。
3.評価システムは必要だがむずかしい
「文化会館の企画運営評価をどのようなモノサシを使って行なうか」を内部で論議したことがあります。特に首長や議会への報告では、稼動率や集客数や事業の収支比率といった数値的なところが主となってしまいます。コンセプトを活かした事業の成果や課題、芸術の制作や演奏会の質を評価するモノサシは、残念ながら持っていないのが現状です。判断する関係者も、多忙すぎてなかなか鑑賞に足を運べない現実もあります。事業を次年度に継続させるかどうかの判断を、住民で組織する企画運営委員会に委ねたことがありました。判断材料として、幾つかの評価基準を作って順位を付けようとしました。芸術性の高さ・企画成熟度・地域の特徴を生かしているか・コンセプトへの直結度・参加者の満足度・社会の注目度・収支比率評価・参加者数評価と8つのものさしで評価指標を表しました。しかし、この評価指数のみで、事業の全体評価とすることには疑問とする意見が多くありました。「事業を決定する最終的なモノサシは、館長の考えであろう」ということになりました。また、会館オープン前に、全国公立文化施設協会でモデルケースとして人口の2%を対象にアンケート調査をしていただきました。そしてオープン5年後に同じアンケート調査を会館で実施しました。会館に関わっているスタッフの評価と住民の評価は、異なる結果となり、判断に迷うこととなりました。2年前、文化事業費を倍増していただくため、首長と議員、財政担当職員の理解を得るため、私なりのモノサシをつくり説明したことがありました。それは、稼働率・入場数・チッケット収入・メディア効果(報道効果)・経済効果(宿泊・飲食・物産販売)といった項目に基づいたものでした。芸術評価、地域評価(ニーズをつかむ)、経済評価など目的により異なると思いますが、公立ホールとしての「モノサシ」をつくりホール運営にいかしてゆきたいものです。
4.地方だからこそできるパートナーシップ
町村合併を控え、地方分権、地域間競争、自己責任の潮流の中で、行政も住民もより一層の自立を求められています。町村合併の大きな目的のひとつに地域活力の伸長があるわけですが、これからは、人材や地域の特徴・価値を活かした協働して企画する作業がますます重要な意味をもってくると考えています。今までの公共ホールは、当然ながらほとんど行政が直接運営してきました。住民は、公共事業の受け手の立場にありました。これからは、住民が文化事業の企画に積極的に参加する姿勢も求められています。企画への参画や運営。舞台、音響、照明技術のボランティア支援、そして、メセナのようなスポンサーシップなど住民の参加が期待されています。ハイアートはプロパー職員がマネージメントし、コミュニティアートは住民がマネージメント、事業によっては協働してマネージメントと企画や運営の内容にあわせた役割分担からパートナーシップが育ち公共ホールとしての大きな価値が存在するといえます。
文化芸術事業は教育、企業、大学、福祉分野などとの様々な連携や地域資源(自然環境・観光資源・芸術文化)との連携プログラムが可能です。事例を紹介しますと、公共ホールと地元企業とホールに研修に来ている大学と連携して二夜のクラシックコンサートを実施しました。「産・学・官」のネットワークです。メセナとして事業費とチケットセールスは地元企業が受け持ち、研修をかねてアートマネージメントは、新潟大学の学生が担当し、会場、設備、スタッフとノウハウの提供は、小出郷文化会館が受け持つといった三者のパートナーシップが実現しました。三者の特性を活かした役割分担により、新しい成果を生み出すことができました。コンサートの聴衆の数は、今までの平均の3倍となって、大きな事業利益も発生し、文化振興金としてサポーターズクラブ(会館事業費支援メセナ団体)に寄与することができました。ホール単独では、事業費、マンパワー、宣伝、地域の理解を得るなど様々な点で大変ですが、このように連携し役割を分担することによりこれらがスムーズに運び、多くの成果が得られました。

また、「アート・温泉・コシヒカリ」と題して、池袋にバスをチャーターし首都圏から地方への観劇温泉ツアー(ミュージカル鑑賞・雪遊び・食文化交流パーティー・温泉宿泊パック)の試みです。「自然・観光・芸術」を活かした企画であり、ホールへの新しい聴衆の拡大や芸術を活かした地域振興事業で、交流人口の増加と地域経済の活性化にもつながるものと考えます。「ホールと観光会社と温泉施設と地元料理や雪遊びの達人」との協働により実現しました。このような取り組みから会館への理解やサポーターシップが拡がり、公共ホールの存在が地域にとって重要なセクションになるでしょう。地方の公共ホールはいかに地域とパートナーシップが組めるかがひとつの鍵になることを教えられました。
5.アウトリーチで公共ホールは認知される。
小出郷文化会館は、2町4村の広域圏で運営していて、ホールは圏域の南の端に位置し、各町村からの交通の利便性には格差もあります。芸術文化を公平に利用(鑑賞、練習、発表など)いただくには、ホールへのアクセスに問題がありました。建設する前にある首長が「建設費は出しても、運営費や事業費まして宣伝費は一銭でも出したくない」と言いました。これは多難なスタートだと思いました。私は館長に就任し最初の挨拶文に次のよう書きました。「会館の事業は小出郷全体を活かして取り組みたい」利便性の悪い町村とのギャップをいかに埋めるかが課題です。小出郷は、住民が地域空間をうまく利用して芸術を大衆に提供してきた実績があります。酒蔵での落語や講談、お寺での一人芝居、体育館中央に素敵な特設ステージでのジャズライブ、飲食店を活かしたフォークコンサート、トンネル内でのコンサート、奥只見ダムサイドでのニューミュージックコンサートや学校・福祉施設などへの出前コンサート等々です。これらを、地域で過去20年間やってきた実績があるのです。そんなことから、どこでも文化事業はやれるものと考えていました。しかし、ホールがオープン後の2、3年は、地域へ出る余裕はありませんでした。また、職員の理解も得られなかったという状況もありました。そんな中、地域創造のステージラボ研修で遣唐使(職員)が学んで来た者が、「アウトリーチに取り組みたい」と言ってきました。これをきっかけとして、地域創造のアウトリーチプログラムに積極的に取り組むことになりました。4年目にして、公約を果たせることとなったのです。アウトリーチ事業は、芸術普及活動、地域の利便性の平準化、学校教育との連携、行政の理解や聴衆の拡大、芸術家との密接なつながりなど、多くの利点があることを発見しました。アウトリーチによって地域社会とのつながりが拡大しホールが地域から認知してもらえるようにもなってきました。地域から必要とされて初めて、公共ホールと言えるのではないでしょうか。
6.公共ホールと芸術家との関わりから生まれるもの
芸術家とホールの関係は、ホールのコンセプトと企画を理解いただき、継続して実施することにより信頼が生まれるものだろうと考えています。買い公演でないオリジナルなオンリーワン事業も必要です。レジデントやフランチャイズ型の事業への取り組みが、協働した事業制作を積み上げていき、プライベートの付き合いへも広がっていきます。芸術家が、地域の祭りに参加し、家族とともに温泉を訪れるという深い関係も生まれます。また、ホールとの事業とは別に、趣味のスキーや釣り、登山にやってきます。私たちより、地元の事に詳しくなり、第二のふるさとになっていく場合もあります。様々な芸術家が町の飲食店にごく普通に通い、セカンドハウスを購入した方もいます。芸術家が新たな仲間を呼び、新しい芸術家との出会いも生まれてきます。地域と芸術家の親密な関わりから、地域を活かした企画が生まれ、そして、地方発の芸術文化の誕生にもつながることでしょう。
地方の公共ホールは、さまざまな問題を抱えていますが、芸術には、力(エネルギー)があります。人を活かし、人をつなぎ、地域をつくる力です。財政が厳しい時代であればこそ、芸術の力を活かし、地域に認知され必要とされる公共ホールでありたいものです。
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